大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

前橋地方裁判所太田支部 昭和56年(ワ)69号 判決

原告

柿沼武志

(他二〇名)

右原告ら訴訟代理人弁護士

角田義一

(他六名)

被告

ニプロ医工株式会社

右代表者代表取締役

佐野實

右訴訟代理人弁護士

鈴木航児

山岡正明

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

一  申立て

原告らは、「被告は原告らに対し、別紙請求金目録記載の各金員およびこれらに対する昭和五五年九月一四日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は被告の負担とする」との判決および仮執行の宣言を求め、被告は主文と同旨の判決を求めた。

二  原告らの主張

1  請求の原因は、別紙に記載されているとおりである。

要するに、(一)被告会社の給与規定、(二)賞与の、労働の対価としての法的性質、(三)被告会社における過去の賞与支給実績、(四)賞与の権利性についての、被告会社労使の理解などを総合すると、被告会社の賞与は、単なる恩恵ではなく、労働契約の内容をなし支払を義務づけられた賃金の一部と解すべきである。

2  後出三項2の被告の主張は、否認する(被告会社と組合支部との間の協定書に、被告指摘のごとき条項があるのは事実であるが、協定書締結当時、原告らは組合支部に参加していなかったのであるから、その拘束力が原告らに及ぶことはありえない。もっとも原告らが賞与請求権を有することを前提として、その計算方法・支払時期などを、被告会社の過半の従業員が適用を受ける労働協約に基づいて定めるのは、合理的解釈として許されることである)。

三  被告の主張

1  別紙記載の原告の請求の原因第一・第二のうち、第二の四を争い、その余の事実は認める。

2  被告会社においては、賞与はその支給日に在籍する者に対してのみ支給することは、確立した慣習であり、原告ら主張の請求原因第二の五に記載されている支給条件を定めた昭和五五年九月五日付協定書(被告会社と原告らが所属していた総評合化労連化学一般関東地方本部ニツシヨーニプロ支部との間で合意されたもの)にも、支給対象者は、「支払日に在籍するもの」と明示されている。

したがって、本件賞与支給日である昭和五五年九月一三日に在籍していない原告らには、これを請求する権利はない。

四  証拠(略)

理由

別紙記載の請求原因のうち、第一、第二の一ないし三・五の各事実は、当事者間に争いがない。

而して、いずれも、(書証・人証略)を総合すると、被告会社は予てから、賞与はその支給日に在籍する従業員にのみ支給する扱いをしており、従業員らもこれを納得し特に反対の意思を示したことはないとの事実を認めるに十分である(人証略)のみではこれを妨げるに足りず、(書証略)も((人証略)を参酌するとみぎ認定に反するとはいえない)。したがって、賞与受給者に関する右の扱いは、被告会社労使間の慣行として、つとに確立しているとみるのが相当である。ところで、被告会社が受給者をこのように絞っているのは、賞与を既になされた労働の対価として捉えるほかに、向後の勤務継続への期待も含ませているものと忖度できるが、私企業がその支給する賞与にかかる期待を込めることはあながち不倫理とも考えられないので、受給者に関する前記の慣行は、改善の余地はあるにせよ、公序良俗に反するとまではとうてい言えないと当裁判所は考える。それゆえ、本件賞与につき原告らが適用を受けるべき労働協約がなく、また労働契約・就業規則にも賞与受給資格に関する格別の定めのあることが窺われない本件においては、受給資格については原告らも前記慣行の規律をまぬかれないと解するの他はない。

そうすると、本件賞与が支給された昭和五五年九月一三日にはすべての原告が被告会社に在籍していなかったことを原告らが自認する以上、本件請求は全部認容するに由なきものである。よって、民訴法八九条・九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 春日民雄)

(別紙) 請求の原因

第一 当事者

一 被告会社は、肩書地に本社を構え、群馬県館林市に工場を持つ、主に注射針、注射筒等の医療器具等を製造している会社であり、従業員数は約六〇〇名、資本金は金九六〇〇万円である。

原告らは、別紙賞与金額計算書の「入社年月日」欄記載の時期に被告会社に入社、館林市松原二丁目一九番六四号所在の被告会社館林工場に勤務し、最終的には、それぞれ「元の職場」欄記載の職場に勤務していたものであるが、「退職日」記載の日に被告会社を退職した。

二 昭和五五年度夏期賞与の算定基礎となる原告らの基本給、職能給、物価手当、皆勤手当、家族手当は、それぞれ、別紙賞与金額計算書記載のとおりである。

第二 夏期賞与の支払義務について

一 労働基準法一一条によれば、同法上の賃金とは、「労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう」と定義され、賞与もこれに含まれることは疑いがない。

二 被告会社においては、その給与規定第一八条に、「賞与は年二回六月、一二月に支給する。但し都合により時期を変更することがある」旨の規定があり、実績として各年ごとに必ず支給されてきた。

三 昭和五五年六月支給される賞与(実際の支給は遅れている)の支給の基礎となる勤続期間は、昭和五四年一一月一六日から昭和五五年五月一五日までの、六カ月間である。

四 そして、原告らは、みぎ支給対象期間中に、誠実に労務を提供したのであるから、たとえその後退職したとしても、すでに提供した労働の対価として発生した賞与請求権を失わぬことは当然である。

五 被告会社においては、昭和五五年六月の賞与、次の条件で支給されることになった。

1 支給額 二・四五カ月

2 配分

(一) 入社六カ月以上のもの 満額

(二) 入社六カ月未満のもの 六分の在籍月数による

(三) 成績考課 (プラスマイナス)二〇パーセント

但し、最高一二〇パーセント、最低八〇パーセントとし、平均一〇〇パーセントとする。

3 支給日 昭和五五年九月一三日

第三 よって、原告らは、昭和五五年九月一三日に、それぞれ別紙請求金目録記載のとおり、支給対象期間中勤務した期間の割合に応じて夏期賞与を請求する権利を取得した。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例